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まちサポくさつ (公財)草津市コミュニティ事業団

団体インタビュー

みんなで食卓を囲む そんな当たり前のことが難しい時代だから

小規模多機能型居宅介護事業所 心

お口の体操 あいうえお

小規模多機能型居宅介護事業所 心  「ありさんあつまれア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア。かにさんかさこそカ・ケ・キ・ク・ケ・コ・カ…」取材でお邪魔したお昼時、高齢者の元気な声が響きます。まるでアナウンサーの発声練習のよう。「食事の前にする口の体操なんです。したい人だけですが、これを楽しみにしている人もいるんですよ」と説明してくれるのはスタッフの一人、池田佐代子さん。「心」は市内で唯一の小規模多機能型居宅介護事業所として、高齢になっても障害を持っても住み慣れた街で元気に暮らせるよう訪問・通い・宿泊事業を行っています。

ひとくちおにぎり

 口の体操の傍ら、広く大きな窓のある清潔感あふれるリビングダイニングではスタッフが昼食の準備で忙しく手を動かします。食材はレシピと共に業者から配達されスタッフが調理します。魚は事前に骨を抜いたものですが、特に高齢者向けのメニューというわけではありません。各自のお盆の上にはネームプレートとペースト食・ミキサー食・普通のご飯など、噛む力や飲み込みやすさなど一人ひとりの状況に合わせた食事になるようスタッフが工夫しています。食べやすい一口サイズのおにぎりにされた膳もありました。

食事に会話を

 いよいよ食事。3つの大きなテーブルにこの日は 人の高齢者が座りました。その間あいだにスタッフも入り、みんなで一緒に食事をします。心地よい音楽も流れながら大きな家族の食事風景です。池田さんは言います。「スタッフも高齢者もみんなで食事をしようと始めました。会話のある楽しい食事の雰囲気を作りたかったんです。一緒に食べることで高齢者の食べている様子やスピードもわかるし、誤嚥しないか見ることもできます。好き嫌いがあっても会話しながらなら食べてくださるときもありますしね。何よりもスタッフが周りでバタバタすると利用者も落ち着かないでしょ」だから片付けもみんなが食事を終えてから。食後はスタッフも一緒にコーヒータイムです。どこまでも家庭的な雰囲気が貫かれます。

ごちそうなんてね

 近所に住むAさんは 歳。週に4回、シルバーカーを押して通っています。「ここは楽しいですよ。たくさん話ができます。利用者もスタッフもなごやかで穏やかな人たちばかり。程よく楽しませてもらっています。花見に連れて行ってもらったり、喫茶店でぜんざいやパフェを食べたり。週1回のお泊りのときは気の合う人と遅くまでポンジャン(手づくりの絵合わせゲーム)をしているんですよ。歳をとるとね、そんなにごちそうはいらないんです。シシャモの一夜干しとか、ふきのとうの味噌、フナ寿司に熱いお湯をかけたものなんかが大好きで、家でも嫁さんが作ってくれます。」深く皺を刻んだ華奢な手が印象的です。

その人の意思とペースで

 池田さんにもう少し聞きました。「皆さんここでの食事を楽しみにされているので、食事の中で季節感を出すことも心がけています。みんなでイチゴ大福やお好み焼きをつくったり、お鍋を囲むこともあるんですよ。クリスマス会や敬老会のときは地域の方も招いて一緒に食事をします。またお誕生日には本人から食べたいものを聞いています。寿司が好きな人が多いですね。みんなでケーキを食べることもあります。本人の意思を尊重し、その人のペースに合わせることを大切にしています。食事もしたいときにとる。食べたくない人に無理強いはしないし、眠くなったら横になってもらう。また『もうこの歳だから食べたい物を食べたいようにしてもらえますか』と話されるご家族もいます。よほど重い病でない限り、できるだけ本人が望む味の濃さにして納得する、楽しめる食事をとってもらうようにしています。」

心と心で通じ合う

 食事が楽しくできることは生きる力、喜びです。だからいつまでも食事は楽しくありたい。みんなで食卓を囲む雰囲気から生まれる笑顔と笑い声。そんな当たり前なことが難しい時代です。でもここには、そんなことに真剣に心を配る人たちがいました。そしてその人たちを家族のように信頼する高齢者の姿がありました。心と心で通じ合う「心」はその名のとおりハートフルな人たちに満ちています。ほんのりと幸せなで気持ちを感じながら建物を後にしました。

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