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まちサポくさつ (公財)草津市コミュニティ事業団

団体インタビュー

夢を叶えたドラえもん

中村弥宜さん(草津プレミア米「匠の夢」生産者)

本気やったんか

中村さん  中村さんはここ志那中で、代々兼業農家を営む家で育ちました。お父さんが消防士の傍らにする農業を、中村さんは小さなころから手伝ってきました。高校卒業を前にして、進路の選択をするときも迷わず「農業」と決めていましたが、実はお父さんは先々のことを考え、田んぼを手放す準備を進めていました。
 子どものころから家族や近所の人たちが田んぼで見せる農作業の姿にあこがれ、「いつかはかっこいいトラクターに乗って地元で農業をする」と決めていた中村さん。「農業だけをしたい」息子と「サラリーマンをしてはどうか」と勧める父。世間とは逆のパターン。何回も反対されながら精いっぱい自分の志を伝え、なんとか説得できたそうです。「近所の人からも『お前、本気やったんか』なんて言われましたよ」

 すでに農業を辞めるつもりでいた中村家。この時には大方の農業機械も処分していました。唯一、残っていたトラクター1台からの出発でしたが、晴れて中村さんの夢が叶いました。

毎年が一年生なんや

中村さん2  しかし、農業は見ていた時と職業として自らするのでは全く違う。なにせ自然が相手の仕事、天候にも左右されます。「会社勤めだと誰かが教えてくれたり、マニュアルがあったりするでしょ。そんなのがないんです。作物の育て方の本はあっても、実際はその通りにはいかない。だから、よそのやりかたを見たり聞いたりしながら、自分のやりかたを見つけていくしかないんです」。この言葉のとおり試行錯誤の日々でした。ある年には、にっちもさっちもいかなくなってしまい、近所の人と話しても悩みから抜け出せない。途方に暮れ、立ち尽くしていた時、近所の農家の人が話しかけてきました。「この仕事は毎年が一年生なんや。たとえ今年成功しても、来年うまくいくわけじゃない。だからその年に合った農業をしたら良い」と言われました。中村さんは農業に正解がないことを改めて教えてくれたこの言葉に救われたと言います。それからというもの、今年の失敗を踏まえ来年はこうしようと、ひとつずつ歩んでいくうちに、今では自分の農業が少しずつ見えてきました。

中村さん3  もう一つ、若き農業者を支えてくれたもの、それは草津市農業後継者クラブの存在です。このクラブは市内で40歳未満の農業従事者による集まり。中村さんのようなお米農家のほかに、野菜や園芸の農家も参加し、消費者との交流や各自課題を設定した自主研究など、様々な角度から農業を見つめます。世代を超えたタテ糸でノウハウを受け継いでいくことが難しい現在、“草津の農”でつながる同世代がヨコ糸で支え合う、現在そしてこれからの農業のヒントがここにあります。

草津の米を草津の人に

中村さん4  現在、草津産プレミア米「匠の夢」は認定業者9名のメンバーで生産。その一人として中村さんも頑張っています。「草津のお米は美味しい。だけど、これらのお米は全国市販のブランドになってしまって、結局スーパーには『草津産』のお米が並ばない。やっぱり草津の人に草津のお米を食べてほしいですよね」。そこで生産者とJAが話し合って取り組んだのがプレミア米「匠の夢」です。オール有機のこだわり肥料を使用し、厳しい乾燥調整をしながら基準値85点以上・外観1等級をクリアしたコシヒカリだけがプレミア米「匠の夢」として販売されます。といっても自然が相手の農業ですから、いつも上手くいくとは限りません。厳しい基準検査をクリアできなかった場合は、普通のコシヒカリとして出荷されることになります。土づくりから、工程の一つひとつにまでこだわってつくり、厳しい検査をクリアしたものの、どの工程がその美味しさを導き出しているのかは、まだ実感としてわかりません。答えのない農業の姿がここにもあります。「結果的に、食べて美味しいのひと言に尽きますね。」少し日焼けした中村さんの笑顔が印象的です。

この景色を守るため

田園風景  この辺りは農業振興地域、豊かな田畑が広がる風景は中村さんの幼いころから変わりませんが、寄る高齢化の波は避けられません。跡継ぎがなく、農業を断念せざるを得なくなった田畑を中村さんは積極的に預かり耕します。「僕は生まれ育ったここの景色が大好きです。今は一枚一枚小さい田んぼですが、効率の良い大規模農業も大切だと感じています。なんとか耕作放棄地をつくらないことで、この景観を保ちたい。おこがましいけど、田んぼを続けることでこの景色を守っていきたいんです」。中村さんを育んだこの景色は今も健在です。
 青い作業着がトレードマークの中村さんは近所の子どもたちに「ドラえもん」と呼ばれているとか。学校の行き帰りには「ドラえもん、おはよう。行ってきます」と声をかけてくれます。ドラえもんは近所のおっちゃんやお母さんたちとも、お米や食の話で立ち話。「僕には農業が人生そのもの。土の上にいると幸せやなぁってつくづく思う。夢が叶って、今、仕事が楽しくてしかたがない毎日です。」夢を叶えたドラえもんは今日も草津の未来を耕しています。

取材・掲載

コミュニティくさつ109号 2016.6月
「種を蒔け」より

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